Phillips 8×10とPhillips 11×14|定年後にじっくり楽しむはずだった大判カメラ

海辺で三脚に設置したPhillips 11×14 Compactの大判カメラとGoerz Dagor(ゲルツ・ダゴール)

iPhoneに残っている昔の写真を何となく見ていたら、懐かしい写真が出てきました。

私の宝物であるPhillips(フィリップス) 11×14(ジュウイチジュウヨン)です。

私は以前からPhillips 8×10(エイトバイテン・バイテン)を使っていて、その軽さと取り回しの良さ、そしてしっかりした作りがとても気に入っていました。

そのため、いつしか、

「Phillipsの11×14も中古で出てきたら欲しい」

と思うようになり、以前からずっと探していました。

そして、ようやく見つけて手に入れることができたのが、このPhillips 11×14です。

長い間探して、やっとものにすることができた大判カメラ。

私にとって、これは単なる撮影機材ではありません。

宝物なのです。

目次

Phillips 11×14という大判カメラ

Phillips 11×14 Compactと、Schneider 360mm、Kodak Wide Field Ektar 250mm。11×14で使用していた2本の大判レンズとともに。

Phillips 11×14は、その名前の通り11×14インチのシートフィルムを使用する超大判カメラです。

11×14インチは約28×36cm。

8×10インチ(約20×25cm)でも十分に大きなフィルムですが、11×14インチ(約28×36cm)になるとさらに大きくなります。

三脚に設置して長い蛇腹を伸ばしたPhillips 11×14は、今のデジタルカメラとはまったく違う独特の存在感があります。

私のカメラには、

「11×14 COMPACT」

そして、

「R. H. PHILLIPS & SONS / MIDLAND, MICHIGAN」

と記されています。

Phillipsの大判カメラの魅力は、ただ大きいだけではありません。

これほど大きなフォーマットを扱いながら、実際にフィールドへ持ち出して撮影することを考えて作られているところにあります。

軽量で取り回しがよく、それでいてしっかりしている

蛇腹を大きく伸ばしたPhillips 11×14 CompactとGoerz Dagor(ゲルツ・ダゴール)とGoerz Artar(ゲルツ・アーター)。11×14という巨大なフォーマットながら、フィールドでの撮影を考えて軽量に作られているところがPhillipsの大きな魅力です。

Phillipsというカメラを知ったのは、私が先に使っていたPhillips 8×10からでした。

Phillips 8×10を実際に使って感じた一番の魅力は、非常に軽量で取り回しが楽なことです。

8×10という大判カメラでありながら軽い。

それでいて、軽量でありながら作りはしっかりしており、十分な剛性もあって、実際に使っていて安心感があります。

大判カメラをフィールドへ持ち出して使う私にとって、この違いはとても大きなものでした。

そしてPhillipsは、素材の使い方にも特徴があります。

昔ながらの木製大判カメラとは少し違い、木材やアルミニウムだけでなく、樹脂や複合素材などを適材適所に使い、重量を抑えながら必要な剛性を確保するという合理的な考え方で作られています。

木、金属、樹脂、複合素材。

それぞれの素材の長所を生かして、軽量でありながらフィールドでしっかり使える大判カメラに仕上げる。

私は、そんなPhillipsの設計がとても気に入りました。

Phillips 8×10が良かったから11×14を探した

Phillips 8×10を使って、その良さを知っていたからこそ、

「このPhillipsで11×14を使ってみたい」

と思うようになりました。

しかし、Phillips 11×14は中古市場でいつでも見つかるようなカメラではありません。

「中古が出てきたら欲しい」

そう思いながら、ずっと探していました。

そして、ようやく見つけることができたのが、今持っているPhillips 11×14でした。

見つけたときは本当にうれしかった。

Phillips 8×10を気に入って使っていたからこそ、その先にあった11×14をようやく手にすることができた喜びは大きなものでした。

Phillips 11×14をフィールドへ持ち出す

冠布(かんぷ)をかぶり、大きなピントグラスを見ながら構図とピントを合わせます。時間をかけて一枚の写真をつくっていく、大判カメラならではの撮影風景です。

11×14は、Phillipsが軽量に作られているとはいっても、気軽に持って出かけられるカメラではありません。

カメラ本体に大型三脚。

レンズ。

11×14の大きなフィルムホルダー。

そして、ピントを合わせるときに使用する冠布(かんぷ)

これらを持って撮影場所へ向かいます。

現地に着いたら三脚を設置し、その上にPhillips 11×14を載せます。

蛇腹を伸ばし、レンズを取り付ける。

冠布をかぶって大きなピントグラスを覗き、構図を決めてピントを合わせる。

そしてフィルムホルダーをセットする。

そして最後に天候によって絞りシャッタースピードを決めレリーズを押す。

一枚の写真を撮影するまでに、ずいぶん時間がかかります。

スマートフォンなら取り出して数秒で撮影できる時代です。

それとは正反対の写真の撮り方です。

でも私には、その時間も含めて大判写真の楽しさでした。

冠布の中で大きなピントグラスに映る像を眺める時間。

じっくり構図を考える時間。

一枚を撮るために準備する時間。

それが楽しかったのです。

撮影できたのは数回だけだった

撮影場所に設置したPhillips 11×14 CompactとGoerz Dagor(ゲルツ・ダゴール)。カメラ本体だけでなく、大型三脚、レンズ、フィルムホルダー、冠布などを持って出かけるのも11×14撮影の一部でした。

せっかく手に入れたPhillips 11×14でしたが、当時は仕事が忙しく、実際に撮影に持ち出すことができたのは数回だけでした。

それでも、私はそれほど焦っていませんでした。

仕事をしている間は仕方がない。

定年したら時間はできる。

そのときに、このPhillips 11×14を持って、時間を気にせずじっくり大判写真を楽しめばいい。

そう考えていたからです。

天気を見ながら撮影場所を決める。

大きなカメラと三脚を持って出かける。

急ぐことなくカメラを設置する。

冠布をかぶって、大きなピントグラスに映った像をじっくり見る。

一枚の写真に時間をかける。

そんな時間を、定年後の楽しみにしていました。

ところが突然、脳梗塞になった

2025年9月6日、私は突然脳梗塞になりました。

そして2026年2月28日に退院するまで、約半年間の入院生活になりました。

脳梗塞になった当初は、カメラのことなど考える余裕はまったくありませんでした。

病気のこと。

残された仕事のこと。

そして右半身に残った片麻痺の後遺症。

これから自分はどうなるのだろう。

それまでの人生で楽しんできた趣味のことなど、頭の中からすべて真っ白になりました。

大判カメラを持って撮影に出かけることなど、絶対に無理だと思っていました。

頭に浮かんでいたのは、

「もう使えないものは処分していかなければならない」

ということばかりでした。

大切にしてきたPhillips 8×10もPhillips 11×14も、いずれ処分することになるのだろう。

そんな絶望的なこれからの人生ばかりを想像していました。

小指がほんの数ミリ動いた

ところが、脳梗塞になって5、6か月ほど経った頃、それまでほとんど自分の意思では動かなかった右手に、ほんの僅かな変化が出てきました。

右手の小指が数ミリだけ動いたのです。

たった数ミリです。

病気になる前なら、気にも留めなかったような動きでしょう。

でも、そのときの私には違いました。

「動いた。」

ほんの僅かでも、自分の意思で指を動かすことができた。

それだけで、それまでとは少し違うことを考えられるようになりました。

小指が数ミリ動くようになったのなら、時間はかかっても、ほかの指も少しずつ動かせるようになるかもしれない。

どこまで回復できるのかは分かりません。

それでも、リハビリを続けていくための目標を持てるようになりました。

そして、その目標の先に、もう一度「夢」を持つこともできるようになりました。

Phillips 8×10は、もう一度撮影するための大きな目標

Phillips 8×10カメラとCooke Series XVa Triple Convertibleレンズ。軽量で取り回しがよく、それでいてしっかりした作りが気に入り、Phillips 11×14を探すきっかけになった大判カメラです。

その夢の一つが、Phillips 8×10で再び写真を撮ることです。

大判カメラの撮影では、左手でもレリーズを押してシャッターを切ることができます。

ですから、最後にシャッターを切ること自体は左手でもできます。

問題は、そこにたどり着くまでです。

Phillips 8×10を三脚に設置する。

レンズを取り付ける。

冠布をかぶってピントグラスを覗く。

構図を決め、ピントを合わせる。

フィルムホルダーをセットする。

そして、すべての準備を終えた最後に、

左手でレリーズを押してシャッターを切る。

もう一度そこまで自分でやって、一枚の写真を撮りたい。

今の私にとって、それはとても大きな目標です。

何年かかるのか分かりません。

以前とまったく同じようにはできないかもしれません。

それでも今は、

「できないから処分する」のではなく、「いつかもう一度使うために残しておく」。

そう考えられるようになりました。

Phillips 11×14は、たとえ撮影できなくても宝物

Phillips 11×14 CompactにKodak Wide Field Ektar 250mmを装着して海辺で撮影。仕事が忙しく11×14で撮影できたのは数回だけでしたが、今となってはカメラとレンズを持ち出した時間そのものが大切な思い出です。

一方、Phillips 11×14は正直なところ、以前のように自分一人で扱って撮影するのは難しいと思っています。

8×10よりさらに大きなカメラです。

三脚への設置。

巨大なカメラの操作。

11×14の大きなフィルムホルダーの取り扱い。

片麻痺が残る現在の私にとって、どれも非常に高い壁です。

それでも、

Phillips 11×14を手放したいとは思いません。

長い間探して、ようやく見つけたカメラ。

Phillips 8×10を使って気に入ったからこそ、いつか11×14も欲しいと探し続けたカメラ。

そして、

「定年したら、このカメラでゆっくり写真を撮ろう」

と楽しみにしていたカメラです。

今回、iPhoneの写真画像からPhillips 11×14の写真を見つけ、改めて当時のことを思い出しました。

もっと撮っておけばよかった。

定年後まで楽しみを取っておかず、仕事が忙しくても、もう少し撮影に出かければよかった。

そんな気持ちもあります。

でも、もう一度11×14で撮影できるかどうかだけが、このカメラの価値ではないとも思うようになりました。

ずっと探していた時間。

ようやく見つけたときの喜び。

実際にフィールドへ持ち出した数少ない撮影の日。

冠布の中で大きなピントグラスに映る像を眺めた時間。

そして、

「定年したら、このカメラでじっくり写真を撮ろう」

と楽しみにしていた自分。

そのすべてが、このPhillips 11×14には残っています。

これからも手元に置いておきたい

脳梗塞になった直後は、使えなくなったものを処分することばかり考えていました。

でも今は少し違います。

右手の小指が動いた、ほんの数ミリ。

その小さな変化から、また目標を持てるようになりました。

Phillips 8×10は、いつかもう一度自分で撮影するための大きな目標です。

そしてPhillips 11×14は――

たとえ以前のように撮影することが難しくても、これまでの自分の写真の時間が詰まったカメラです。

Phillips 8×10は、いつかもう一度写真を撮るための目標。

Phillips 11×14は、ずっと手元に置いておきたい私の宝物です。

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この記事を書いた人

うのきち(卯乃吉)
2025年9月に脳梗塞を発症し、人生が大きく変わりました。
入院、回復期リハビリ、そして退院後の生活期までの体験をブログに記録しています。
このブログでは、脳梗塞の体験、リハビリの記録、退院後の生活などを中心に、同じ立場の方が少しでも参考にできる情報を発信しています。
私自身まだ回復の途中ですが、この記録が誰かの希望や励ましになればうれしいです。
昨日より今日、今日より明日。
少しずつでも前へ進めますように。

新着記事や日々の短い気づきは、
ThreadsやXでも発信しています。
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