先日、写真仲間から「TOKYO 8×10 EXHIBITION 2026」の案内状が届きました。
今年は2026年8月25日(火)から31日(月)まで、江東区文化センター2F展示ロビーで開催されます。
この案内を見た瞬間、とても懐かしい気持ちになりました。
私も5〜6年前までは8×10(エイトバイテン・バイテン)カメラで写真を撮影し、この写真展にも数回参加していました。
今では脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺が残り、以前のように大判カメラを扱うことができません。
写真展の案内を眺めながら、楽しかった当時のこと、今も手元に残っているカメラやレンズのこと、そして「いつかもう一度8×10で撮影したい」という思いについて書いてみたいと思います。
8×10という大きなフィルムで撮影する楽しみ
8×10とは、8×10インチ(約20×25cm)もある大きなシートフィルムを1枚ずつ使って撮影する大判カメラです。
今のデジタルカメラのように、気軽に何枚もシャッターを切るような撮影ではありません。
大きな三脚を立て、その上にカメラを据え、蛇腹を伸ばし、冠布(かんぷ=遮光布)をかぶってピントを確認する。
構図を決め、露出を測り、フィルムホルダーをセットして引き蓋を抜き、ようやくシャッターを切ります。
一枚撮影するだけでも、ずいぶん時間がかかります。
当時は、Phillips(フィリップス) 8×10という大判カメラを愛用し、8×10インチのシートフィルムで風景写真を撮影していました。
東京スカイツリーの夜景、竹林、東京ゲートブリッジ、浅草寺五重塔など、時間をかけて構図を決め、一枚一枚丁寧に撮影していました。
8×10カメラは、決して手軽なカメラではありません。
三脚を立て、カメラを据え、蛇腹を伸ばし、冠布をかぶってピントを合わせる。
フィルムホルダーを装填し、その時の光と対峙して絞りとシャッタースピードを決めて最後に息を整えてシャッターを切る。
デジタルカメラとはまったく違う、ゆっくりとした時間が流れる撮影でした。
でも私は、そんなゆっくりと流れる撮影の時間が好きでした。
愛用していたPhillips 8×10とCooke Series XVa Triple Convertible

私がよく使っていた8×10カメラの一つが、Phillips 8×10とCooke Series XVa Triple Convertibleのレンズです。
8×10カメラというと、大きく重い木製カメラを想像する方も多いと思います。
私もDeardorff(ディアドルフ)の8×10を使っていましたが、Phillipsは8×10判としては軽量で、フィールドへ持ち出して撮影するには魅力的なカメラでした。
Phillipsの大判カメラは、アメリカ・ミシガン州のR.H. Phillips & Sonsによって作られたもので、軽量でコンパクトに持ち運べることを意識した独特なカメラでした。
そして、このPhillips 8×10に取り付けていたお気に入りのレンズが、
Cooke Series XVa Triple Convertible
(クック・シリーズXVa トリプル・コンバーチブル)
です。
1本で3種類の焦点距離を使えるCooke Series XVa
このCookeレンズの面白いところは、普通の単焦点レンズとは違い、前玉・後玉の組み合わせを変えることで、1本のレンズで3種類【311mm(f/6.8)・476mm(f/11)・646mm(f/16)】の焦点距離を使えることです。
Cooke Series XVaは、往年のCooke Series XV Triple Convertibleを現代に復活させたレンズです。
その原型となったSeries XV Triple Convertibleを使っていた写真家の一人が、アメリカを代表する風景写真家**アンセル・アダムス(Ansel Adams)**でした。
アンセル・アダムスの代表作として知られる「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」も、Cooke Triple Convertibleを使って撮影された作品として知られています。
そんな歴史を持つレンズの現代版をPhillips 8×10に取り付けて撮影することも、当時の私の楽しみの一つでした。
カメラとレンズを何本も持ち歩かなくても、一つのレンズで画角を変えられる。
大きく重い8×10の機材を持って出掛けることを考えると、この組み合わせはとても魅力的でした。
今でもPhillips 8×10とCooke Series XVaは、大切な機材です。
Deardorff 8×10も使っていました

Phillipsのほかに、Deardorff(ディアドルフ)8×10も使っていました。
写真は、実際にDeardorffを使って撮影していた頃のものです。
こうして昔の写真を見ると、大きな8×10カメラを前にして、当たり前のように両手を使って操作している自分が写っています。
当時は、それが特別なことだとは考えたこともありませんでした。
カメラを三脚に載せ、蛇腹を伸ばし、ピントを合わせる。
レンズを操作して、フィルムホルダーを差し込み、引き蓋を抜いてシャッターを切る。
そんな一つ一つの動作を普通にできることが、どれほどありがたいことだったのか。
脳梗塞で右半身に麻痺が残った今になって、改めて感じています。
撮影した8×10フィルムは自分で現像
8×10の楽しみは撮影だけではありませんでした。
撮影した8×10のシートフィルムは、自宅で自分で現像していました。
デジタルカメラと違い、その場で撮影結果を見ることはできません。
きちんと写っているだろうか。
露出は大丈夫だっただろうか。
撮影したフィルムを現像し、大きな8×10のネガを初めて見る瞬間も、大判写真の楽しみの一つでした。
プリントと額装は専門の方にお願いしていました

こちらは、当時8×10で撮影した東京ゲートブリッジと浅草寺五重塔のモノクロ作品です。
撮影とフィルム現像までは自分で行っていましたが、プリントまで自宅で行っていたわけではありません。
8×10のネガをプリントできる引き伸ばし機を持っていなかったため、作品として仕上げるプリントは専門のプリンターの方にお願いしていました。
そして完成したプリントは、写真展に出展するための額を購入する際に、額装までお願いしていました。
ですから当時、自分で行っていたのは撮影からフィルム現像まで。
その先のプリントと額装は、専門の方の力を借りながら一枚の作品に仕上げていました。
いつか自宅ですべて完結させたいという夢もありました
当時は、
「いつか撮影から現像、プリント、そして額装まで、すべて自宅で完結できたらいいな」
という夢も持っていました。
8×10の暗室環境を一度にすべて揃えるのは大変です。
そこで、数年ごとに必要な機材や道具を少しずつ買い足していこうと計画していた時期もありました。
「次はこれを揃えよう」
「いつか自分の暗室でプリントまでできるようにしよう」
そんなことを考えながら、少しずつ写真の環境を作っていくことも楽しみの一つでした。
今振り返ると、写真を撮るだけではなく、一枚の作品を自分の手で最初から最後まで作り上げることにも憧れていたのだと思います。
8×10の作品を写真展へ

こうして完成した作品を、写真展にも何度か出展しました。
写真は当時の展示風景です。
8×10カメラを持って撮影に出掛け、自宅でフィルムを現像し、専門のプリンターの方に仕上げていただいた写真が額に収まり、展示会場の壁に並ぶ。
自分の写真を会場で見ることには、撮影したときとはまた違った嬉しさがありました。
今回「TOKYO 8×10 EXHIBITION 2026」の案内をいただき、この頃のことをいろいろと思い出しました。
脳梗塞で右半身に麻痺が残り、今は撮影できません
ところが、2025年9月に脳梗塞を発症し、私の生活は大きく変わりました。
2025年9月から今年2月まで、約半年間の入院生活を送りました。
発症した当初はあまりにも突然のことで、自分に起きたことを理解するだけでも精一杯でした。
現実を認められない。
いや、認めたくない。
そんな自分自身との戦いでもありました。
それでも仕事やそれまでの生活がありましたから、最初の頃は自分の身体のことよりも、
「仕事の関係者にできるだけ迷惑をかけないようにしなければ」
ということばかり考えていました。
そんな状態のまま、発症から4か月ほどが過ぎていきました。
片脚は思うように動かない。
片腕も動かない。
指も動かない。
うまく喋ることもできない。
食事を飲み込むことさえ、以前のようにはできない。
それまで普通にできていたことが、突然できなくなってしまいました。
当時の私には、これから先の生活を想像することさえ難しく、すべてが絶望的に思えました。
しかし、発症から5か月、6か月と時間が経つにつれ、少しずつですが、自分の置かれた現実を受け入れられるようになってきました。
そして、それまでの
「もうできない」
という考え方から、
「これは、もしかしたらできるようになるかもしれない」
ということを、一つずつ探せるようになりました。
できないことを数えるのではなく、できそうなことを探して、それを目標に変えていく。
そう考えられるようになったことは、私にとって大きな変化だったと思います。
右手もまだ自由に使うことはできません。
右半身に麻痺が残り、現在もリハビリを続けています。
8×10カメラは、カメラを三脚に載せれば撮影できるというものではありません。
カメラの組み立て、レンズの操作、ピント合わせ、フィルムホルダーの抜き差し、引き蓋の操作など、撮影するまでには両手を使う細かな作業がたくさんあります。
現在の私には、以前と同じように8×10カメラを自由に操作して撮影することはできません。
今でもPhillipsやDeardorffをはじめ、レンズやフィルムホルダーなど、いろいろな機材を所有しています。
使いたいカメラが手元にあるのに、使うことができない。
今回の写真展の案内を見ていると、懐かしい気持ちと同時に、やはり残念な気持ちにもなります。
それでも、写真を諦めたわけではありません
ただ、私は写真を諦めたわけではありません。
今のリハビリには、写真についての大きな目標があります。
まず目指しているのは、
右手でRolleiflex Automat MXのシャッターを押せるようになること。
8×10カメラをいきなり操作するのは難しくても、まずはRolleiflexのシャッターを自分の右手で押したい。
そして、もう一度写真を撮りたい。
それが現在の目標です。
その次の目標はPhillips 8×10
そして、Rolleiflexで写真を撮れるようになったら、その先にもう一つ目標があります。
それは、
軽量なPhillips 8×10を三脚に設置して、もう一度8×10フィルムで写真を撮影すること。
以前のように、大きな三脚や8×10の機材一式を自分一人で担いで撮影に出掛けることは難しいかもしれません。
カメラを三脚に設置するところまでは、誰かの力を借りることになるかもしれません。
それでもいいと思っています。
三脚に据えたPhillips 8×10の前にもう一度立つ。
冠布をかぶって大きなピントグラスを見る。
構図を決め、ピントを合わせる。
そして、お気に入りのCooke Series XVaを付けたPhillips 8×10で、もう一度シャッターを切る。
たった一枚でもいい。
もう一度、自分の手で8×10フィルムに風景を写してみたいと思っています。
「もっと良い写真を」から「もう一度写真を」へ
脳梗塞になる前は、
「もっと良い写真を撮りたい」
と思っていました。
今は少し違います。
「もう一度、自分で写真を撮りたい。」
まずは右手でRolleiflexのシャッターを押す。
そして、その次はPhillips 8×10で一枚撮る。
以前なら当たり前だったことが、今では大きな目標になりました。
でも、目標があるからリハビリを続けられるのだと思います。
「人と比べない。昨日の自分と比べる。」
焦らず、一歩ずつ。
いつの日かPhillips 8×10の前にもう一度立ち、冠布をかぶってピントを合わせ、8×10フィルムに新しい一枚を残す。
今回届いた「TOKYO 8×10 EXHIBITION 2026」の案内は、懐かしい思い出とともに、そんな新しい目標を改めて思い出させてくれました。
いつかまた8×10のシャッターを切る、その日を目標に。
これからもリハビリを続けていきたいと思います。
TOKYO 8×10 EXHIBITION 2026 開催情報
TOKYO 8×10 EXHIBITION 2026
開催期間:2026年8月25日(火)〜8月31日(月)
会場:江東区文化センター 2F展示ロビー
開館時間:9:00〜22:00
スタッフ在廊:11:00〜18:00
初日:12:00開廊
最終日:15:00閉廊
8×10という大判カメラで撮影された写真を実際に見ることのできる写真展です。
大判写真に興味のある方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。


コメント
コメント一覧 (4件)
unokichi さんへ
カメラの投稿興味深く拝見させて頂きました。今まで私の人生の中でこのようなレトロでおしゃれなカメラに接する機会が全くありませんでしたので、とても新鮮な内容で、勉強になりました。それと同時に、unokichiさんが大切にされていたご趣味が病気の後遺症のために一時的に思うようにできておられない悔しさも正直に綴っておられ、でも今できることを見つけて、更に一歩ずつ進む地道な努力をされている前向きな姿勢に大変感銘を受けました。私も母の闘病以来、身体を自由に動かせるというのは実は当たり前ではないのだということを実感しています。家族が病気になるということはとっても辛いことですが、それがきっかけで、人体の仕組みの素晴らしさや、家族や病院のスタッフ、その他関わる方々の優しさなどにも触れて、新しい気づきや感謝できることが増えたなぁと感じています。unokichiさんもいつかまた8×10のシャッターを切る、その日を目標に、ご無理なさらずリハビリを続けていかれますように心から応援しております。
Beansさんへ
コメントありがとうございます😊
8×10カメラの記事を興味深く読んでいただき、とても嬉しいです。
今ではデジタルカメラやスマートフォンで簡単に写真を撮れる時代ですので、大きな三脚を立て、暗布をかぶり、1枚ずつフィルムを入れて撮影する8×10カメラは、初めて見る方にはずいぶん不思議なカメラに見えるかもしれませんね。
私にとっては大切な趣味でしたので、脳梗塞の後遺症で思うようにカメラを扱えなくなったことは、やはりとても残念です。
発症した当初は、できなくなってしまったことばかりを考えていましたが、最近になってようやく「できない」ではなく、「どうすればできるようになるだろう」と考えられるようになってきました。
お母さまの闘病を通して、「身体を自由に動かせることは当たり前ではない」と感じられたというお話、本当にその通りだと思います。
私自身も病気になって初めて、歩くこと、手を動かすこと、話すこと、食べることなど、それまで何も考えずにしていた一つ一つのことが、実はとてもありがたいことだったのだと気づきました。
そして私も、入院中から現在まで家族をはじめ、医師や看護師、リハビリの先生、そして多くの方々に支えていただき、人の優しさやありがたさを以前より強く感じるようになりました。
病気になったこと自体は決して良かったとは思えませんが、それまで気づかなかったことに気づき、感謝できることが増えたのは確かだと思います。
まずは右手でRolleiflexのシャッターを押すこと。
そして、その次はPhillips 8×10を三脚に据えて、もう一度8×10フィルムで写真を撮ること。
いつになるかは分かりませんが、焦らず一歩ずつ、その日を目標にリハビリを続けていきたいと思います。
温かい応援のお言葉、本当にありがとうございました😊
うのきちさん、Beansさんへ
おはようございます🙇
私もレトロで魅力的なカメラの記事、興味深く読ませて頂きました!📷
私は知り合いに、ピンホールカメラに詳しい人がいたので😅カメラの話題は懐かしく、うのきちさんのカメラ撮影への熱望を胸にヒシヒシと感じました〜✨💐
一刻も早く、カメラ撮影への復活を遂げられますこと、祈っております🎉☺️
今日も1日、少しずつ前進✨して参りましょう💐
Reiさんへ
コメントありがとうございます😊
ピンホールカメラに詳しいお知り合いがいらっしゃったのですね!
ピンホールカメラも、今のデジタルカメラとはまったく違う、写真の原点のような面白さがありますよね📷
8×10カメラも撮影するまでにとても手間のかかるカメラですが、暗布をかぶって大きなピントグラスを覗きながら、時間をかけて一枚の写真を撮ることが本当に楽しかったです。
いつになるか分かりませんが、これもリハビリを続ける楽しみの一つにしたいと思っています😊
「今日も一日、少しずつ前進✨」
本当にその通りですね。
まだまだ暑い日が続きますね💦
焦らず、無理をせず、お互い少しずつ前へ進んでいきましょう💐
いつも温かい応援をありがとうございます😊